日本ではコーヒーが伝来以してからずっと『コーヒー』と呼ばれ、すっかり馴染んでいますが、それはコーヒーが世界へ普及する過程で様々に変化し、現在の呼び方となっているのです。始まりは何と呼ばれていたのか、どうしてコーヒーとなったのかなど、コーヒーの語源にまつわる話をご紹介します。
目次
コーヒーは最初『バン』と呼ばれていた!?
コーヒーの発祥や普及については、実はまだ謎な部分が多いのですが、発祥はエチオピアという説が有力とされています。当初はまだ『コーヒー』ではなく『バン』と呼ばれていたようで、現在のような嗜好品の飲み物としては扱われていませんでした。
『バン』はアラビア人医師ラーゼスの記録に登場
コーヒーが初めて文献に登場したのは8~9世紀頃で、アラビア人医師のラーゼスによるものでした。
ラーゼスは「バンカムは熱く口当たりよき飲み物なりて、胃にもきわめてよし」と記していて、この『バンカム』がコーヒーのことを指しているとされています。バンカムとは『バン』の煮出し汁と書かれているので、バン(Bunn)=コーヒー豆バンカム(Bunchum)=飲料としてのコーヒーと推測できます。
そして彼は、コーヒーに薬理効果があるとして自身の患者にも薬として飲ませており、「消化や強心、利尿の効果がある」と臨床結果も一緒に記されているそうです。
10世紀になると、イスラム世界最高の知識人と評価されている、医師アヴィセンナがコーヒーについて、「熱さ口当たりよさ第一級なり。人によりてはその興ざましなること第一級。身体各部を強化し、皮膚を清めて湿りを取り去り、香りを生む」と残しています。
彼はラーゼスの知識を継承し、さらに詳しくコーヒーの効能について調べました。その結果、当時コーヒーは医学的な利用が主流で、飲み物というよりも薬として使われていたのです。
『コーヒー』はエチオピアの町の名前からとったという説もあり
コーヒーの始まりはアラビア語の『バン』だという説が有力ではありますが、実はエチオピアにはコーヒーの生産地として有名な『カッファ』という地域があります。
エチオピアの首都からは遠く離れた南西部に位置し、ここがコーヒーの発祥地ともされている場所です。そのため、最初からコーヒーは『カッファ』と呼ばれていて、様々な国へ渡り発音の違いなどから現在のコーヒーとなった、という説も根強く言い伝えられています。
確かに現在もカッファ地方は存在し、コーヒーの有名な産地ではあるのですが、本当にコーヒーの発祥地なのかということや、実際に『カッファ』と呼ばれていたという裏づけがされていません。
そのため、文献が残っている『バン』や『バンカム』が珈琲の最初の呼び名として有力となっていますが、今後新しい発見があれば語源の歴史が変わるかもしれませんね。
アラビアに渡り『カフワ』へと変化
『バン』や『バンカム』だと、まだコーヒーと呼ばれる由来が見えてきませんよね。しかし、エチオピアからアラビアに渡り普及し始めた頃から、コーヒーは『カフワ』へと変化していきます。これは、宗教と強い関係があるのですが、『カフワ』とは一体何なのでしょうか?
『カフワ』とはワインのこと
『カフワ(Qahwah)』とは、アラビア語でワインのことを指します。カフワの語源は『パワー』だったそうで、人を覚醒させてしまう飲料として、名づけられました。
アラビアではイスラム教が国教とされていて、イスラム教のなかの『ハラール(ハラル)』という厳格な決まりで、飲酒ができません。心身に強烈な影響を与えて、興奮を誘発してしまうお酒は、悪とされていたようですね。
そのため、イスラム教信者は『カフワ』を飲みたい気持ちがあっても、抑制しなければならなかったのです。
ワインの代用とされていたため『カフワ』と呼ばれる
お酒を飲みたくてもイスラム教である限り飲むことはできず、そんなときにエチオピアから『バン』が伝わります。コーヒーのその独特な香りや、覚醒作用がワインのようだと話題を呼び、ワインの代用として飲まれてコーヒーが普及していきました。
それと同時にバンではなく、『カフワ』と呼ばれるようになり、アラブでは現在も日本人が居酒屋でお酒を飲む感覚で、喫茶店でコーヒーを飲む習慣があります。
『カフワ』がヨーロッパに渡り『カッフェー』へ
『カフワ』として馴染みはじめたコーヒーも、16世紀になると“トルココーヒー”で有名となるトルコへ渡ります。ここでは『カーフェ(Kahveh)』という発音に変わり、その発音の名残のままヨーロッパのイタリアへ伝来します。
イタリアでは『カッフェー(Caffé)』と呼ばれ、1645年にヨーロッパ初となるカフェが誕生しました。それからコーヒーはヨーロッパ全土へ普及し、それぞれの発音で呼ばれはじめるのです。
アメリカでは『コーヒー』と呼ばれるようになる
アメリカにコーヒーが伝来した時期は定かではないのですが、コロンブスが大陸を発見した後に、移民がアメリカにたくさん渡り、アメリカでもコーヒーが爆発的な人気を呼びます。このときに『コーヒー(coffee)』と呼ばれるようになりました。
日本はオランダから伝来した『コフィー』から由来
日本に伝来するのはさらにその後の、18世紀以降の江戸時代です。日本もコーヒーの伝来には諸説ありますが、オランダから伝わったとされています。オランダ語では『コフィー(Koffie)』と呼ばれていて、それが日本人の発音しやすい『コーヒー』となったとされているのです。
そして、日本で使用するためには漢字をつける必要があり、『可否』、『可非』などほかにもさまざま当て字が考案されていました。
特に有名なのが、日本で初の喫茶店となる『可否茶館(かひいちゃかん)』で、こちらではコーヒーは『可否』とメニューに載っていました。しかしその漢字は長く続くことはなく、蘭学者の“宇田川榕菴”が考えた『珈琲』が現在まで伝わっています。
この漢字の素晴らしいところはただ音を当てたのではなく、“珈”と“琲”それぞれに『玉のついた髪飾り』の意味があることです。
液体となったコーヒー飲料や茶色く丸いコーヒーの豆ではなく、コーヒーノキにコーヒーの赤い実がなる姿からインスピレーションを受けた、とてもおしゃれな当て字だったのです。
榕菴は他にも“酸素”・“窒素”・“水素”などの言葉も作っていて、言葉を作り出す能力にたけていたことが分かりますね。また、中国でもコーヒーの語源について様々考えられていましたが、日本の『珈琲』からとって『咖啡』となったという説も根強いので、この漢字の素晴らしさがよくわかります。
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コーヒーの語源を知るとちょっと自慢したくなるかも
現在当たり前のように使用している『コーヒー』ですが、まだまだ謎な面も多く、最初の語源については今後変わる可能性もあります。ただ、アラビア語の書物では『バン』という名でコーヒーが初登場していますので、現在は最初の呼び方として有力です。
そして、イスラム教徒の間でワインの代わりとして『カフワ』と呼ばれるようになり、ヨーロッパでは発音の違いはあれど、『カッフェー』や『コフィー』が浸透したというのが、順当な流れでしょう。
日本はというと、オランダから『コフィー』が伝来し、日本人らしく呼んだ結果『コーヒー』となり、『珈琲』という漢字が当てられました。この流れを知っているだけで、思わず誰かに話したくなりませんか?